カナダ・トロント市在住の梶原由佳さんから、最新の現地事情についてお知らせいただいたので、梶原さんのお許しを得てお届けします。
梶原さんは、トロント公共図書館(Toronto Public Library)「オズボーン・コレクション」室にお勤めです。当館では、昨秋、「絵本の宝庫、オズボーン・コレクションの扉を開けて」と題して、ご講演いただきました。また「こどもとしょかん」166夏号(7月20日刊行予定)には、同コレクションや、トロント公共図書館の児童部“少年少女の家”と、それを立ち上げたリリアン・H・スミスについて、梶原さんにお書きいただいた評論を掲載する予定です。
カナダは、新型コロナウイルスの感染者数も死者数も日本よりはるかに多いのですが、そのなかで人々が助けあって、のりこえようとしている姿に励まされます。また、図書館がフードバンクとして、地域に根ざした活動を行っている姿にも驚かされます。ぜひお読みください。

私の新型コロナ事情

(あくまでも個人的日常です)

オンタリオ州の州都であるトロント市は、人口およそ290万。トロント近郊都市を含むGreater Toronto Area(GTA)と呼ばれる地域になると625万人くらいでしょうか。カナダ最大の都市です。(東京都の人口は930万人くらい?)市内には100の分館を持つ公共図書館があり、私はその中の1つリリアン・H・スミス・ブランチの中にあるオズボーン・コレクション室にて働いています。
3月13日の金曜夕方、「明日から4月5日まで全館閉館です」と館内放送がありました。11日にWHO(世界保健機構)が新型コロナウィルスを世界的に流行しているpandemicと発表していたし、トロントでも2月末から感染者数が増えていたので閉館の知らせも納得です。この時点では、「図書館は閉館でも職員は中で勤務」という知らせだったため、そう心配もしていなかったのです。ところが数日内に職場から出勤停止のメールが入りました。
17日にオンタリオ州が緊急非常事態宣言を出した際には、内心、「これはもう相当危うい局面だな」と感じました。予約していた歯科医、整体は、それぞれドクターの方からキャンセルだと電話がありました。

3月23日にトロント市が非常事態宣言を出しました。6月いっぱいまで、各種スポーツやイベントは全て中止と決定。(翌日くらいかな。東京オリンピックが延期と知りました。)スタバやマクドナルドなどを始め、レストランはどこも店内飲食禁止。持ち帰りや宅配のみとなりました。

左手にあるちょっと変わった建物はトロント市街地にあるROM (オンタリオ博物館)でいつもは観光客であふれている場所です。通りには誰もいませんでした。

4月に入り、図書館は7月1日まで休館と決定。その時私は、「オンタリオ州政府は、何らかの資料を持っているに違いない。これは、もう長期戦だ!」と覚悟を決めました。周囲ではトイレットペーパーの買い占めなど、ちょっとしたパニック現象が見られたようです。こういうところは世界共通ですね。でも、生活に基本的に必要な食料品店、薬局、病院などはオープンしているわけですから、私はそう焦りませんでした。ただ、床屋さんや美容院が閉まっているため、自分で髪を切って大変なことになったという人がいるようです。

さて、自宅待機ではあるものの、上司からのメールは日々チェックし、頼まれた仕事はやっています。図書館は、ウェブサイトを通じて、elearningやeBooksのダウンロードなど様々なサービスを提供しています。建物は開いていませんが、今やインターネット時代、便利なものです。https://www.torontopubliclibrary.ca

図書館の9つのブランチ(分館)が、現在、フードバンクの役割を担い、地域の方々に食料を提供しています。新型コロナの影響で、職を失った方々も多い現在、図書館はコミュニティーに根ざしたサービスを益々求められているように思います。これまで書籍類を保管していた倉庫は、食料保管庫になり、書籍運搬用のブックトラックは食料運搬のために活用されています。

さて、日常の買い物ですが、週に1回程度。大手スーパー、例えばコストコなどは今も長蛇の列のようで、30分とか1時間並んだという友人もいます。そういう場合、みなさん、2メートル間隔で並びます。大手のチェーンストアでは、毎朝1時間を高齢者の買い物時間としているところがあります。最近ではキャッシャーの人たちはマスクや透明シールドをかぶっています。私はというと、大型店には行きません。個人経営の八百屋さんや、小規模のスーパーで買い物しています。顔見知りのお店はもちろん、やっぱり小さなビジネスを応援したいですし、何よりそんなに並ばなくても入店できるからです。

買い物に出かけた韓国系の小型スーパー。誰も並んでおらず客は数人でした。スタッフの方が頻繁に、買い物かごや出入り口の除菌作業をされてました。

3月15日以降、友人や知人に全く会っていません。住んでいるアパート内のご近所さんと手を振って挨拶する程度です。たまに、数メートル離れて立ち話。私の住むアパートビルは小さいのですが、2階に住む女性が住民に呼び掛けてFacebookでグループを立ち上げました。ここで、高齢者の買い物の手伝いを申し出たり、「どこそこの店は、マスクや除菌剤の在庫があるよ」など情報交換しています。

日課としては、アパートビルの共有部分、例えばコインランドリーの部屋の掃除や、階段の手すり、エレベーター、ドアノブなどの除菌ボランティアをやっています。清掃担当者もいますが、やはり頻繁に掃除した方がいいという意向です。

日に1度、1時間の散歩をするぐらい。他の人とは数メートル離れて歩きます。公共の乗り物は極力避けていますが、4月16日の昼間、数週間ぶりにバスに乗ったら、乗客は私1人! 運転手との間に距離を設けるために、バスの中には黄色のテープが貼られていました。

先日乗ったバスはガラガラで乗客は私一人でした。乗客とのphysical distancingのために座席の所々にダクトテープが貼られていました。

我が家の向かいには私立の名門男子高校があります。これまで見かけていたアメフトやサッカーなどをやっている学生の姿は全く見られず、校門や校内には「新型コロナウィルスにより、校内閉鎖」の看板が幾つもあります。駐車場も空っぽです。時折、警備員が校内を歩いている姿を見かけます。(ちなみに、公立の学校もオンラインで授業をやっています。)

大きな公園やオンタリオ湖沿いなど、警官がパトロールし、人が集まっていると違反チケットをきるとも聞きます。

トロント市営の公園は全てクローズ。遊具は使用禁止ですから黄色のテープが貼られています。子どもさんの姿もなく笑い声も聞こえず、本当に静かです。交通量が減り、人の姿もあまり見かけないためか、空気が澄んで、コマドリのさえずりが響きわたっています。

ところで、観光関連の仕事をしていた知人は、先日解雇されました。失業者の増加は深刻です。カナダ連邦政府は、Canada emergency response benefit (CERB) を打ち出しています。(これは、最大4ヶ月。月々2000カナダドルが給付される制度。COVID-19によって収入や仕事を失った人を条件にすでに600万人以上が申請し、給付が始まっている。4月15日にはトルードー首相が会見で申請条件を緩和し、これまで収入や仕事を失った人を対象としていたところを、月収1000カナダドルまで認める措置をとり、申請資格者の幅を広げた。https://torja.ca/covid19_opinion_cerb)このCanada emergency response benefitとは別に、中小企業支援策なども出てきています。何しろ前代未聞の状況なのでカナダ政府も試行錯誤といった感じです。

昨日(4月18日)アメリカとの国境閉鎖をもう一月延長することになり、ホッとしました。現段階では、カナダ全土で3万人(うち、オンタリオ州1万人)を越す感染者と死者1500人が出ています。オンタリオ州は、日々400から500人と感染者数が増えています。が、隣国アメリカでは、桁違い。感染者75万人(死者およそ4万人!)となっており、恐ろしくてなりません。人の移動が感染拡大の原因となります。日本ではゴールデン・ウィークが近づいているのでとても心配です。

日々、医療従事者の方々が大変な思いをされていること、彼らの働きに感謝するとともに、その方々に迷惑をかけないためにも、今はできるだけ自宅に引きこもることだと思っています。

1日も早く気軽に外出できる日が来ることを、そして何よりも皆さまのご健勝をお祈りいたしております。

(2020年4月19日記)

*参考リンク

トロント公共図書館の9つの分館が現在フードバンクとして機能しています。

CBC(Canadian Broadcasting Corporation…カナダの公共放送局)でも紹介されました(video):

CBCでの掲載記事(英文) :
https://www.cbc.ca/news/canada/toronto/library-food-banks-covid19-1.5529492

フードバンク開始を紹介するトロント公共図書館のブログページ:
https://torontopubliclibrary.typepad.com/news_releases/2020/04/toronto-public-library-works-with-toronto-food-banks-to-extend-access-during-covid-19.html